シェフが愛する阿波尾鶏極上レシピ集

阿波尾鶏の春(鶏もも肉のくわ焼き)

第2回 つきぢ田村 田村隆シェフの阿波尾鶏の春(鶏もも肉のくわ焼き)

プロに学ぶ阿波尾鶏、第二回は日本を代表する老舗料亭、つきぢ田村の三代目ご主人、田村隆さんに春の鶏料理を教えていただきました。

材料 4人分

阿波尾鶏もも肉 2枚
塩、胡椒 少々
しいたけ 8個
小2個
生姜 20g
そら豆 各2、3個
菜の花 2/3把
木の芽 適宜
合わせ調味料(◎を合わせたもの)
◎醤油 60cc
◎みりん 60cc
◎砂糖 大さじ4
◎酒 120cc
◎水 120cc

丁寧に育てられた、
旨みと歯ごたえのバランスが良い鶏肉です。

作り方

  • しいたけは軸をとる。生姜は皮つきのまま5mm厚さ切る。そら豆は皮をむく。筍は放射状に食べやすい厚みに切る。
  • もも肉の皮にフォークを数カ所刺し、身側に軽く塩と胡椒をふる。
  • テフロンのフライパンを熱し、皮を下にして入れ、強火でじっくりと焼く。皮にきつね色より濃い焼き色がついたら裏返し一度火を止める。
  • 生姜、合わせ調味料を加え、落とし蓋をして、中火で煮る。目安は7~9分程度。
  • 肉に箸を刺してすっと通ったら、フライパンの空いている場所にしいたけと筍を入れ、再び落とし蓋をして2分ほど煮、落とし蓋をとって菜の花とそら豆を入れさらに2分加熱、煮汁を肉にかけながら照りをつけ、菜の花とそら豆は取り出す。
  • ほどよい照りがついたところで肉をとり出し、1.5cm幅に切って野菜と共に盛りつける。
作り方素材 調理風景1
TAKASHI’S POINT

TAKASHI’S POINT

  • ●だしいらず
    阿波尾鶏から美味しいだしがとれるので、だしは不要。脂も美味しいから取り除く必要はありません。この旨みを引き出すのが水という調味料です。
  • ●落とし蓋
    具材に直接のせる蓋で、少ない汁で煮あげる必需品。落とし蓋に煮立った煮汁が当たることで煮汁が具材に行き渡り、味や加熱ムラがなくなります。
    木や金属のものもありますが、家庭ではアルミホイルが衛生的。蒸気を逃がす穴は不要です。
  • ●焼き物は一気に仕上げる
    この料理は一見、煮物にも見えますが、“くわ焼き”という焼き物。「煮ては冷ます」を繰り返すことで味を染みこませる煮物に対し、焼き物は冷まさず一気に仕上げます。最後は落とし蓋をとり、煮汁を肉にかけながら強火で焼くことで、照りよく仕上げます。

インタビュー

Q:大の鶏肉好きと伺いました。阿波尾鶏はいかがでしたか?
田村隆
10年ほど前、徳島に行ったとき、駅の路地裏の居酒屋で阿波尾鶏の看板見つけて、阿波踊りそのままの“阿波尾鶏”って洒落てるなぁなんて思いながら、焼鳥を食べていたら、酒も鶏も旨くて、空港行きのバスを逃しちゃったことがあって。粋な女将さんが知り合いの運転手を安く手配してくれたりして、徳島の人の人情も感じたよ。これが出会い。
阿波尾鶏は味もよくて柔らかい、けれどブロイラーほど柔らかくなく、歯応えもある。大きいところもいいね。
Q.今回のお料理「阿波尾鶏の春」は “くわ焼き”とのことですが。
田村隆
「くわ焼き」は、昔、畑仕事の合間に仕留めた野鳥を鍬の上で焼いたことからついた名で、フライパンひとつでできる料理。
よく下ごしらえで脂を除いたりするけれど、阿波尾鶏は脂も美味しいからそんな手間は不要。ごま油やサラダ油も使わず、まずテフロンのフライパンで皮目をしっかり焼きます。
ちょっと焦げたかなと思うくらい、ここでしっかり焼き色をつけてください。
その後、阿波尾鶏の旨みを引き出し、煮詰めたタレを元の鶏にまとわせながら、春野菜も美味しくしていきます。「水」という調味料がその役目を果たすのですが、ここで大事なのが落とし蓋。少ない煮汁で肉に火を通すために、肉の上に直接のせて水分を循環させます。家庭ではアルミホイルが便利。水分を逃したくないので穴をあける必要はありません。
煮物は、煮て冷ましの繰り返しで味を含ませますが、これは焼き物なので、火にかけっぱなしで一気に仕上げるのもコツのひとつです。
「春は苦みを食す」と言いますが、菜の花や筍など、クセのある春の野菜に、バターのような風味の旨いタレをまとった阿波尾鶏が好相性。ごはんにもみ海苔して、タレをかけてキジ丼みたいに食べるのもいいね。
翌日お弁当に入れるなら、タレと具は別々にしてそれぞれ温めると美味しいです。
Q:田村さん自身も大好きという唐揚げは家庭料理の定番ですが、美味しい作り方を教えていただけますか。
田村隆
400gのもも肉なら10切れくらいに切ります。小さく切ると旨みが出てしまうからちょっと大きめに。
醤油と水(またはだし)各大さじ1.5を加えたら、2分ほど手でもんで水分を全て鶏に吸わせます。その後、片栗粉をまぶし、170℃の油で4分半揚げます。油から頭がでているものはかえす程度であまりいじらないようじっくりと。
網にあげ、肉を1分休ませます。その間に180℃に上げた油にすべて戻し入れ30秒。ここはややはねるので気をつけて。
一つずつ鍋の上で油を切って取り出します。
熱々をかじれば、表面がパリっとして、じゅわっと肉汁がでる最高の唐揚げに。マヨネーズをつけてごはんとどうぞ。
Q:ご著書でもさまざまな鶏料理を拝見しました。ユニークな料理も多いですが、発想はどこから。
田村隆
外食はもちろん、家族からもヒントを拾って自分流にアレンジしています。
結婚して1年たった頃、おじいちゃんが「おまえが座敷で、文子さんが料理場入ったらええんちゃうか。文子さんの料理はおいしいなあ。だいたい隆のは行き過ぎやで」って。
初代、田村平治にそう言わせた女房は、農家の娘で洋食も中華も作る料理好き。
つきぢ田村にいらしたお客さまに召し上がっていただくだけでなく、テレビの料理番組や料理教室でお教えするのも大事な仕事で、そういう時は家庭の味が喜ばれますから彼女からいくつも料理を盗んでいますよ。
娘たちもヒントをくれたりします。
家族で鶏鍋をした時、モッツァレラチーズをちょっとしゃぶしゃぶするように食べると美味しかった。だしと合うことを知り、茶碗蒸しにしてみようと思いました。
トマトを粗く潰し、漉した透明なエキスをだしと卵と合わせ、モッツァレラチーズを入れて蒸します。
一見普通の茶碗蒸しだけど、食べた瞬間、鼻に抜けるトマトの香り、食べ進めると熱々の中からとろっとチーズが出てくる。お客さまに大変喜んでいただきました。
Q:看板に五味とあります。
田村隆
五は陽の数字の真ん中で、全てにつながると言われています。五行、五官などいろいろありますが、五味とは甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つの味のこと。
つきぢ田村では、祖父、田村平治が学んだ料理の技術と心を受け継ぎ、五味の調和を掲げています。

シェフのプロフィール

TAKASHI TAMURA
田村隆

1957年「つきぢ田村」の長男として誕生。1980年、大学卒業後、大阪の名門料亭「高麗橋吉兆」に入門。3年間の修業の後、つきぢ田村へ。現在はつきぢ田村の主人として調理場の最前線で腕をふるう一方、NHKのテレビ番組や料理学校の講師、料理本等の出版など、一般に向けた食の伝承にも力を注ぐ。平成22年「現代の名工」厚生労働大臣賞受賞
公益社団法人日本料理研究会 師範
著書に「つきぢ田村の日本料理」(日東書院本社)、「日本料理 季節の煮物入門 関東仕立て」(誠文堂新光社)など多数。