シェフが愛する阿波尾鶏極上レシピ集

阿波尾鶏の春(鶏もも肉のくわ焼き)

第4回 譚彦彬シェフの「阿波尾鶏の梅肉蒸し」「阿波尾鶏のよだれ鶏」

第四回目のプロフェッショナルは、東京の銀座と赤坂で正統派の広東料理店を営む「赤坂璃宮」の譚彦彬さんです。
子供の頃から丸鶏を料理する母の姿を見て育ったシェフに、阿波尾鶏や広東料理について伺いました。

レシピ1:阿波尾鶏の梅肉蒸し 梅子蒸滑鶏(ウイチーツェンワッテイ)

材料 2~3人分

阿波尾鶏もも肉 300g
万能ねぎ 少々
◎調味料
*塩 1.9g
*グラニュー糖 19g
*チキンコンソメ 1.9g
*梅肉(塩分控えめ・叩く) 40g
*胡椒 少々
*生唐辛子(粗みじん切り) 2g
全卵(溶いたもの) 5g
フライドガーリック 5.6g
葱油 15g
片栗粉 7.5g

作り方

  • もも肉は身の厚いところはそいで一口大に切り、*を混ぜ、全卵、ねぎ油を順に絡め、最後にそっと片栗粉を混ぜる。
  • 1を皿にのせ、7~8分強火で蒸す。万能ねぎを飾る。
調理風景
HIKOAKI’S POINT

HIKOAKI’S POINT

  • ●下味をつけて、最後にそっと片栗粉を混ぜる。
    ●蒸し過ぎると旨味が抜けるので時間を守る。
    ●葱油はサラダ油にねぎの青いところ、玉ねぎを強火で黒くなるまで沸かして漉すと香りが移った葱油ができます。

レシピ2:阿波尾鶏のよだれ鶏 口水鶏(コウソイテイ)

材料 2~3人分

阿波尾鶏むね肉 1枚
香菜 適量
チキンスープ(またはお湯) 500~600cc
干し海老、干し貝柱、金華ハム 各20g
2g
揚げ油 適量
◎タレ(2枚分)
日本酒 20g
砂糖 35g
60g
醤油 60g
中国たまり醤油
(なければ醤油でOK)
15g
黒酢 25g
10g
豆鼓(刻む) 5g
ザーサイ(刻む) 10g
干し海老 10g
ねぎ(みじん切り) 15g
ラー油 お好みで
山椒油 お好みで

作り方

  • タレの材料を合わせる。
  • 干し海老、干し貝柱、金華ハムはそれぞれ、180℃程度の油で香ばしくさっと揚げる。
  • チキンスープに2を加え沸いたらむね肉を入れ、再沸騰したら火から外しラップして16~20分余熱で火を通す。
  • 3の肉を取り出し、塩を溶かし、肉を戻し入れ下味を含ませる。
  • 皮を除いて厚みを半分にし、8mmくらいの細切りにして皿に盛り、タレをかけて供す。
作り方素材
HIKOAKI’S POINT

HIKOAKI’S POINT

  • ●干し海老、干し貝柱、金華ハムは揚げることで生臭みのない、香ばしいスープになります。金華ハムがなければベーコンで代用します。ベーコンもカリカリに揚げます。
    ●沸いたスープに鶏を入れ火を止めて余熱で火を通すことでむね肉をしっとり仕上げます。

インタビュー

Q:広東料理のシェフになったきっかけは?
譚彦彬
中華街で生まれ育ったんだけど、両親は広東出身なんだ。
中学は厳しい学校だったから真面目にしていたのだけど、高校は自由だったからたがが外れちゃった。ヤンチャばかりやって、勉強しなかったら、「それならもうコックになれ」と親に新橋の中国飯店に入れられたのがこの世界に入ったきっかけ。
Q:初めからお料理はお好きだったのですか?
譚彦彬
初めの頃は逃げ出すことばかり考えていたよ!だけど20歳から26歳頃までいた仙台ホテルで、当時中国人なんて珍しいから料理長がテーブルで紹介してくれて、お客さんの料理への反応を目の当たりにするようになって少しずつ興味が沸いてきたんだ。
その後、名古屋や京都などで働いて、京王プラザホテル「南園」を経て、ホテルエドモンド「廣州」では料理長になるんだけど、現場では広東料理を勉強しながら、仲間と和食も洋食も何でも食べに行ったよ。料理人は料理にはなんでも興味を持つことが大事、そうやってセンスが磨かれていくね。
Q:今もさまざまなジャンルのレストランに足繁く通われていますが、どう活かされるのですか。
譚彦彬
食材の種類や使い方などを参考にすることが多いね。
和食は特に下ごしらえが非常に丁寧、理に叶っていることに感心するよ。フレンチは飾り、盛りつけが参考になるね。
Q:広東料理とはどういうお料理ですか?
譚彦彬
南に位置する広東は、中国で最も食材が豊かな地域。昔から「食在広州」、“食は広州にあり”といって、肉、海鮮、野菜も充実、沿岸部だから貿易も盛ん。 食材がいいから調理はシンプルで味付けは薄め。医食同源の思想から薬膳で使われる、蒸す、炊くの調理法も多く使われるね。
香港は広東にある小さな魚村だったのだけど、戦後、イギリスの植民地になると中国全土から優秀な料理人が香港に集まり、宮廷料理も入って、広東料理は発展したんだ。 お金が集まるところにいいコックが育つからね。四川や福建など様々な地方料理の中で、広東料理は最も贅沢で特別な料理。日本で例えるなら「京懐石」や「フレンチ」のように特別なハレの日や記念日に食べにいくような料理と言えるよ。
Q:広東料理で「鶏」はどんな位置づけですか?
譚彦彬
中国で肉は、北は羊や山羊、中部は豚、南は鶏なんだ。広東料理は鶏肉中心だよ。
まず、料理全体の決め手になる美味しいスープの主役が鶏。鶏7に対し、豚3、あとは金華ハムや干し海老、干し貝柱、スパイスを入れて取る。
鶏と冬瓜の煮込み料理は定番だし、様々な鶏料理があるのだけど、骨付きが美味しいから一羽まるごと料理することが多い。
葱と生姜で蒸したり、醤油と砂糖ベースのタレの中で炊いたりする醤油鶏、スパイスと炒めて熱々にした塩を土鍋に詰めてオーブンで焼く丸鶏の塩釜焼も美味しいよ。
Q:譚さんがお好きな鶏料理は?
譚彦彬
蒸したり、炊いたりした鶏料理が好きだね。
赤坂璃宮でも出しているけど、香姫鶏(ションフェイテイ)は、母がよく作った茹で鶏。干し海老や干し貝柱、丁字、八角などのスパイスを入れて煮つめたスープで丸鶏を3時間くらい煮込むんだ。
昔の中華街では10羽くらい入った籠をつけた自転車で鶏を売りに来ていて、さばいたのなんて売っていないから丸鶏が日常食。鶏を選ぶのはいつも母で、父が選ぶと怒るんだ。胸やお尻の肉づきチェックしていたね。
お頭つきだからお祝いの料理でもあって、正月は関帝廟へ供えてから持ち帰って料理してくれた。血も内臓も余すところなく食べたよ。
Q:鶏むね肉は、アミノ酸の一種で疲労回復効果が高いとされるイミダゾールペプチドという成分が豊富です。
クエン酸と組み合わせると、効果がより一層高まると言われています。
譚彦彬
今回紹介する「阿波尾鶏の梅肉蒸し」は母が得意だった、自分も大好きな料理。
薬膳では「揚げる」はNGなんだ。身体に優しい料理法は「煮る」「炊く」。 むね肉はぱさつくといって敬遠する人も多いそうだけど、蒸し時間を守れば必ずしっとり美味しくできるよ。
梅干しが効いてさっぱりしているから蒸し暑くなるこれからの季節にぴったり、いにしえの教え、最新の科学の両方の理にかなった料理と言えるね。
Q:阿波尾鶏はいかがでしたか?内臓などを抜いた丸鶏はエアチラーで冷却を行っています。
譚彦彬
以前使ったこともあるけど、身が大きく、皮が厚い。肉質がしっとりしているのがいいね。中華では皮の厚みも大事なんだ。皮の下の脂肪も美味しいからね。
中抜き後エアチラーで冷却しているということだけど、その間に熟成がかかるのも美味しさの秘訣だと思う。
最近はやや固めの食感が好まれる傾向だけど、プロの焼き鳥屋は生ぎりぎりの火通りで出せるからね。阿波尾鶏は火を通しても柔らかいから家庭で使いやすい鶏肉と言えるね。
Q:新しい食材を求め国内外を飛び回っていらっしゃいますね。最近の中国の食事情はどうですか。
譚彦彬
食材を探しによく行くのは香港、西湖や杭州。最近工場に焼売を作りにいって大連や青島にも縁ができた。現地の人に案内してもらって美味しいもの覚えたからよく行くんだ。
中国は金持ちが増え、みんなが「広東料理」を食べたがるから、いままで日本に稼ぎに来ていた香港の腕のいい料理人が中国全国に散っている状況。
中国では30代、40代のフレッシュで動きのいい職人の給料が高いんだ。贅沢したいものだから、輸入のトリュフやフォアグラなどを使うのも流行だよ。
Q:これからの赤坂璃宮が目指すもの
譚彦彬
正統派の広東料理をしっかりやっていきたいと思っている。
中国行って現地の爺さんたちに話を聞いて見識を深めたり、伝統食材であるフカヒレやナマコ、ウキブクロなどもやめずに続けたいね。
そうした上で、新しい食材や調理法も少しずつ混ぜて常に進化させていこうと思っているよ。

シェフのプロフィール

HIKOAKI TAN
譚彦彬

1943年横浜中華街生まれ。
新橋『中国飯店』、芝『留園』、京王プラザホテル『南園』、ホテルエドモント『廣州』の料理長を経て、1996年9月より『赤坂璃宮』のオーナーシェフとなる。
2004年10月1日『赤坂璃宮銀座店』をオープン。
広東料理、中国料理の域を超え、日本人の好みを知り尽くしている料理は素材を厳選し、素材の味を最大限に引き出し、限りなく本場に近い広東料理にあくまでもこだわり、多くのファンを魅了している。
赤坂璃宮でしか味わえない『ガチョウの釜焼き』、日本各地から取り寄せた『ハタの姿蒸し』極上の上湯をベースにした『フカヒレ料理』は自信をもってお薦めできる。
本場の中国の味を紹介するための研究と食材を買い付けるため、年に数回、香港、中国に出向いている。
著書に「ワイン好きの中華おつまみ100」(ワイン王国)、「譚彦彬のフライパンひとつで冷めてもおいしい本格中華」(東京書店)など多数。